2018-01-01から1年間の記事一覧

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二人だけの部屋で何故か周囲をチラチラと伺うと、どもりながら話を始める。片目は緊張から、豆粒大程になり、額が光っている。 明らかに異常な様子を感じた茂は、相槌の速度を緩めると、嘘を付いた男から出たどよん、とした気を逃すように常に口角を上げて聞…

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「すみません。先生は只今席を外しておりまして…。あと一時間程もすれば、お戻りになられると思います。」 と、笑顔で話され、健二はオフィスで待つ事にした。予約も取らずに訪ねたものだから仕方がない。 世間話をするわけでもなく沈黙の時間が流れたが、…

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毛布から顔を覗かせた冷えきった足に起こされた健二は、横になったまま、時計を見ると9時を過ぎたところだった。 (よし) 心で呟き、キッチンへ向かうと数分後にはじゅう、と言う音と部屋には珈琲の香りが溶ける。 青白い顔で朝食を詰め込むと、少し不安そ…

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均等に整列し、鮮やかな葉をつけた木の枝が左右に規則的に揺れる。外はとても暖かく、ここ最近の厳しい寒さを飛び越えて春がやってきたような空間だった。 そして、木造で大きく、様々なパステルカラーで仕上げられた家と、一件に一つずつの青々とした茂っ…

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(覚悟を決めなければならない。 正しい人間になるには強い意志と責任を持って自分で決めた事はやり通さなければならない。) イギリスの誰かが生み出したらしい名言が書かれた本は、高校生になったばかりの健二に、誇らしげでサラリとした文字で、立派な人…

二区切りの中書き

ここでまた一旦、区切りとします。 少しずつですが、アクセスも伸びてきました。 私には数字のカウンターしか見えませんので、これまでを読んでいただいた方や、今この区切りに目を止めて頂いている方はどんな方なのか、わかりません。 でも、アクセスが増…

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イヤフォンを外し二人の男をオフィスの外へ見送ると、彼女はため息をついた。二ヶ月以上タイピングをしていなかった事と、予想以上に健二が早口で話すので、議事録は途中で途切れてしまったのだった。 反省した後、"みるくちゃん"のネームプレートを作ってい…

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「僕はこれまで、あまり物には執着しないタイプだったんですが…。こんな空間にいると、僕の部屋も真似したくなりますね」 「いやぁ飽きっぽいから、もうそろそろガラッと変えちゃいたいんだけどねぇ。何か飲む?」 「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございま…

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「スパーク…いちごちゃん…みるくちゃんと……しげる!」 駅前にオープンした小洒落た100円均一ショップで売られていたちいさなカードは、楽しそうにペンを握る美穂に応えるように、少し丸く跳ねるような文字を受け止める。 インスピレーションで浮かんだ名前と…

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十二月のある日。厚手で紺色のコートに身を包んだ華奢な女性はここ三日間同じデパート内のコーヒーショップへと訪れる。 選ぶものも三日間同じで、一円玉サイズのカラフルなグミがぎっしり詰まったパックを五つ。 誰がみても海外製品だとわかる、毒々しい色…

11

美穂が"先生"と呼ぶ男の元で働き始めてから、約七年が経つのだが、診察室のようなオフィスを訪れたのはたったの十六人ほどである。 彼女が、来なくなったな。と思うと、先生は新しい人を一人連れてくる。途切れる事はこれまでに無かった。 しかし、先生が捕…

10

露出した肌が見えなくなり、厚手のパーカーや、中にはかなり早いがマフラーを巻く人もいた。 ひり、と風が肌の水分を奪うような季節の頃だった。 神戸の南京町近くにある、輸入雑貨屋の中のようなガチャガチャした飲食店街を道一本、それた場所に二人はいた…

一区切りの中書き

健二のお話はここで一区切りです。 私は前書き、とか後書きとか、そういうものを書いたことがなかったので話をしたい時にそのタイミングで書いていきます。 今メディアでは世にも恐ろしい殺人鬼の方たちや、親として、子として家族を大切にできなかった人々…

9

健二はそっと、赤ん坊を抱き上げる。暗くてわかりづらいが、眼は宝石のようなクリアブルーなのだろう。 肌はモチモチと桃を連想させ、血色の良い唇からは涎が垂れている。少し驚いたように部屋を見回したかと思うと間をおいて、部屋中を突き刺すような泣き声…

8

ごそり。ごとん。 麻袋が落ち、ヒンヤリとした床に転がった。健二が過去から現実に引き戻された瞬間だ。 転がったものを片手で乱暴に持ち上げると、ギュッと縛られた口を開き、中を覗く。 薄い、金色の髪がオマケのように被さっている八ヶ月の白人の赤ん坊…

7

眼の色というのは、これまでに全く興味がなかった。ただ、これだけ情報を集める力があるのであれば、たった今思いついた事だって予測できるのではないだろうか。なんて意味のない遊びだった。 セールスマンは健二のなんとなくの悪戯の意味がわかったようで、…

6

健二は子供を犯したい訳ではない。そんな性癖は無いしそれに値する人間を軽蔑さえしている。それに拷問したい訳でも無かった。 ただ。子供を殺してみたい。 紙切れに記された八人の子供達は、決して誰にも漏らさず、健二の中だけに大切に隠しておいた嗜好そ…

5

二十年程前であれば美しさに感動さえしただろう、少し古くなっているが立派な建物の十四階にレインはある。他の階は企業のオフィスが名を寄せているのに、その内のワンフロアがまさかバーである事とは誰も思いつかないであろう。 案内板に名も無く、一階から…

4

四日後、 健二は目を覚ますとコーヒーを入れ、郵便受けから五つの新聞を取り出す。 テーブルの上にそっと並べると朝食の準備を進め、てきぱきとバランス良く並べた後、新聞に目を通しながらベーコン、トースト、目玉焼きの順に平らげた。 食器はそのまま、テ…

3

一年ほど前の事だった。 滑舌が良く小麦色に焼けた肌、スーツを着こなす姿は健二がワイドショーで見た、正義感の強い司会者に今思えば、良く似ていた。 マスターに大きな歯を見せてニコニコと笑い、ウイスキーを頼むその目はバーカウンターの奥のライトの輝…

2.

頭の半分は過去をさぐりながら、 ベッドに腰掛けたまま辺りを見回し、小さな白い灰皿の横のリモコンを手に取る。健二の部屋の、倍ほどもあるテレビをつけると、まずその眩しさに目を逸らしたくなる。 慣れた手つきで明るさ設定を調節し、ぼんやりと眺めると…

1 許されない夢

(テレビの裏、ベッドの下、それと...) そこに入ると間もなく、何処に間接照明があるか探す。 彼は、それぞれが放つ淡い光が幼い頃から好きで、感情のない顔で見渡すが、内心は高揚し、瞳孔は広がっていた。隠された光を全て確認すると、次は部屋全体に目…