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「スパーク…いちごちゃん…みるくちゃんと……しげる!」

 

駅前にオープンした小洒落た100円均一ショップで売られていたちいさなカードは、楽しそうにペンを握る美穂に応えるように、少し丸く跳ねるような文字を受け止める。

 

インスピレーションで浮かんだ名前と、その内の一匹、"しげる"は美穂の上司である男と同じ名前で、共に食い意地が張っている事からその名を付けたのだった。

 

 

二枚目を書き終えた時、オフィスの扉が勢い良く開き、爛々とした目の"しげる"と、その後ろに久々にもう一人、美穂の初めて見る男がいた。

 

 

会釈し、目を合わせる。

 

何かおかしい。

 

 

…異様に左目が小さい。

 

 

倍ほどもサイズに差があるなんとも奇妙なその二つは、確かに先生が興味を惹かれていたのもほんの少しだけわかる気がした。

(雌雄眼…)

以前聞いてからというもの、美穂も思い出せば友達や、家族、コンビニの店員からテレビの芸人まで、気がつけば観察するようになっていた。

 

雌雄眼を持つものは大きな野心がある。

 

そう以前嬉しそうに茂が話していた特徴と、他にも人相学の世界では雌雄眼を持つ者は才知に富んでいたり、胆大心小などの特徴があるらしい。

更に不思議な事に、男女でも特徴は違っているようだった。

 

しかし何故かこれまでの七年間、彼女と茂以外にオフィスに入った事があるのは男だけであった。なんの疑問も持たず受け入れていた美穂は、感覚で男性の特徴だけを調べ、観察するのも男性だけなのであった。

 

 

「欽堂健二です」

 

特に特徴の無い声でさらりと挨拶を済ませた男が、美穂のハムスターケージの前を横切り、先生と奥の部屋へと向かっていくのを確認し、

丸くていかにも女性らしい字で書かれた名前プレートをデスクの脇に寄せると、イヤフォンをはめ、二人の会話に集中するのだった。

 

 

 

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