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(覚悟を決めなければならない。

正しい人間になるには強い意志と責任を持って自分で決めた事はやり通さなければならない。)

 

 

イギリスの誰かが生み出したらしい名言が書かれた本は、高校生になったばかりの健二に、誇らしげでサラリとした文字で、立派な人間の常識を叩き込む。

 

五歳ほどの頃にはもう、家族に消えて欲しいと望んでいた彼は、その数年後には自分が少し変わっていると気づいた。

 

 

おかげで本やテレビドラマ。映画やアニメ等は他人に心を開く事が出来なかった健二に"正しい人としてのあり方"の正解への材料を少しずつ与えてくれていた。

 

正解という鎧に包まれただけで、中身は変わらなかったが、それでも良かった。正規品として、振る舞えるだけでも十分生きていくことはできた。

 

 

 

しかし、これまでに正しさを学んできただけに、反省が大きい。

根源は先生に子供を殺したと嘘をついた事と、それを殺すという夢を達成していない二点。

内容の根源は一緒だが、その二つは違う。

 

 

そして、彼がこれまで吸収してきた人間感も、実際は大きく違っていた。

人は嘘をつくし、うまく行かなくなると諦めてしまう。知り合いの悪口を言うし、真面目に働かない。

 

イギリスの名言を読んでから、暫くした健二は、これまでさも大きく立派に、尊厳を持って崇めなければならない。とされてきた"家族"が酷く、立派からは遠い所にある事に気付いてしまった。

 

 

 

 

健二はここ数日嫌な夢を見る。

 

 

健二がホテルを最初に訪れてから早いもので、二週間が経っていた。