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イヤフォンを外し二人の男をオフィスの外へ見送ると、彼女はため息をついた。二ヶ月以上タイピングをしていなかった事と、予想以上に健二が早口で話すので、議事録は途中で途切れてしまったのだった。
反省した後、"みるくちゃん"のネームプレートを作っていると、興奮で少し髪が逆立った茂がトントンとリズミカルに戻ってきた。
「欽堂くんはまだ蛹なんだ!でも、彼はきっと綺麗な蝶になるよ!」
「子供を殺したんだから、もう夢は叶ったんでしょう?まだ蛹…被害者がこれからも増えるということですか?」
「うぅん…。」
茂は唸った後、納得いかない様子で暫く考え込んだ。先生の説は確信まで到達していないようだ。そして、
「からあげ」
と言ったっきり、ベッドほどもある大きなデスクの引き出しを片っ端から開け始めた。
キリングミの次は、からあげだ。
美穂が買い出しを終えて戻った頃には、彼女からするとガラクタがひっくり返された山に、茂が真剣な表情で蝶の標本を見つめていた。
これまで十五人以上の "モンスターの原石" を観察してきたのは一人だけではない。美穂には仮説があったのだが、口には出さないでおいた。
只の勘なのでしっかりした理由が無かった事と、そろそろ先生の話が始まる事が分かっていたからだ。
しかし、十程あった唐揚げを七口で食べ終えた茂は、柄にも無く疲れたようだ。頬杖をついたまま眠ってしまっていた。
なんとなく、面白くなりそうだな。と、美穂は微笑を浮かべた自分に気付いてはいなかった。
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