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ごそり。ごとん。
麻袋が落ち、ヒンヤリとした床に転がった。健二が過去から現実に引き戻された瞬間だ。
転がったものを片手で乱暴に持ち上げると、ギュッと縛られた口を開き、中を覗く。
薄い、金色の髪がオマケのように被さっている八ヶ月の白人の赤ん坊が顔を出していたーー。
健二が初めて見た虐待動画は、海外のものだった。これだけニュースとして取り上げられる虐待事件でも、実際画面に映るのは日本だと逮捕された犯人の顔と、被害にあった子供の写真くらいだ。
しかし海外のニュースではベビーシッターの暴行現場や、例えば殺人事件でも死体が報道される。彼にとっては凄まじい衝撃で、その晩は眠ることも忘れ動画を探し続けた。
英単語を調べパソコンに打ち込み、虱潰しに動画を探し続ける日々を送った。
ある日、慣れた手つきで虐待動画を探していると、珍しく日本の動画サイトに辿り着く。どうやら海外のテレビ番組をアップロードしているアカウントのようだ。
右から左へと、画面上に閲覧者からの感想が流れていく…。内容は、ベビーシッターが乳児を叩いたり、熱湯らしき物が入ったマグカップを頬に当てている。
「気持ちいい…」
一言、流れたコメントに目を奪われる。快感を感じているのだ、この乳児が粗末な扱いを受ける様子に。日本のどこかにいる誰かが。
勿論、自身では分かっていた。この国には子供に悪意を持って危害を加える、悍ましいと恐れられている人間が存在していることを。
それでもたった一つの「気持ちいい」というコメントで、健二は大きく安堵し、自己を癒すしかなかったのだ。
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