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二十年程前であれば美しさに感動さえしただろう、少し古くなっているが立派な建物の十四階にレインはある。他の階は企業のオフィスが名を寄せているのに、その内のワンフロアがまさかバーである事とは誰も思いつかないであろう。
案内板に名も無く、一階から順に丁寧に整列した名前は、「十四」の隣だけ空間ができている。
ボストンバッグを抱え、エレベーターを待つ間健二の頭では様々な予想が飛び交っていた。
青年が口にした、7560万円から。というのは、最低価格だろう。だとしたら最高はいくらか。
第一、物はどうやって受け取るのか。まさか宅配便で届くわけじゃあるまいし--。
あの男の上司とは一体どこで俺の情報を、。
十四階で開いたドアをくぐると、長い通路の先にレインと小さく書かれた石版があり、大金を抱えた一人を店は受け入れた。
四日前に着いた席には誰もおらず、代わりにその隣の席に若い男が座っている。表情は見えないが、十中八九壁を見つめながら人の良さそうな顔をしているのだろう。
「ごめん、待ったかな」
「いえそれほど。でも僕達ちゃんとした時間、決めてなかったですね」
これではティーンエイジャーの待ち合わせのようだと恥じた健二を気に留めず、
緑の水玉模様のネクタイをきゅっと結んだ青年は、相変わらず愛想のいい笑顔を振りまき、鞄から数枚の安っぽい紙切れを出した。
「こちらが価格と、詳細情報です」
紙切れには写真や挿絵などは無く、代わりに年齢、性別、誕生日、家庭環境などが細かく記してあり、八人分のデータが丁寧に四角く囲ってある。
その全てに目を通すと、健二は絶句する。
データは八ヶ月〜四歳までの男子。二人白人がいるが、八ヶ月と一歳の両方共に白人。他は日本人だった。