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美穂が"先生"と呼ぶ男の元で働き始めてから、約七年が経つのだが、診察室のようなオフィスを訪れたのはたったの十六人ほどである。

 

彼女が、来なくなったな。と思うと、先生は新しい人を一人連れてくる。途切れる事はこれまでに無かった。

 

しかし、先生が捕まえてくるお気に入りは毎日二人の元へ顔を出すわけではないし、月に多くても四回ほどなのだ。

 

 

週に五日間きっちりと働いている彼女の仕事は、

歴史も深みもないシンプルな自身のデスクと、

毎日食べ物のカスや、

ジャンルの全く異なる漫画、書籍、

放り出したままの、青く美しい花をした蝶の標本

時にはいつ用意したのかもわからないLEGOブロックが散乱する先生の畳一畳ほどもあるデスクの片付け

あとは一日一度、先生の好物を買い出しに行くことだった。

 

 

そして、彼が待ちに待った"患者様"が現れると、二人は彼のデスクの横にある扉の奥へと入って行く。

壁一面を本が覆い尽くしており、手のひらほどのトロフィーがいくつかと、五百円玉ぐらいの拳銃のフィギュアなど、先生お気に入りコーナーもある。

子供が好きそうな物をギュッと詰め込んだような部屋だ。

 

 

二人が部屋に吸い込まれたのを確認すると、彼女はパソコンの前に腰掛けて、イヤフォンを付け、二人の会話をリズム良くモニターへ移して行く。

 

先生の名前。その相手の名前。そして、美穂の名前を打ち込むと、二人が部屋から出ると同時に印刷までを終わらせ、書類ケースに滑りこませる。

 

頼まれた訳ではないが、忘れっぽい雇い主の為に買って出た仕事だった。

 

 

 

 

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