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一年ほど前の事だった。
滑舌が良く小麦色に焼けた肌、スーツを着こなす姿は健二がワイドショーで見た、正義感の強い司会者に今思えば、良く似ていた。
マスターに大きな歯を見せてニコニコと笑い、ウイスキーを頼むその目はバーカウンターの奥のライトの輝きを全て吸い取ったように生き生きとして居た。年は20代前半だろうか。おそらく学生時代も今もかなりモテる筈だ。
メディアなどで流行っている、いわゆる草食系男子などではなく、体育会系。中太の少し濃い凛とした眉。黒目の大きな垂れ目で、男らしく人当たりも良さそうだ。
人気のつかない隅の席で、ポツリと座っている。が、どっしり構えるような座り方に存在感がある。テーブルには安物のライター。どうやら煙草を吸うようだ。
健二がたまに通うこのバーには特徴があり、完全紹介制で、年会費540万円を支払うことによって入ることができる。しかしそれは大阪市内の梅田や、難波といった場所ではなく、南方の外れのビルの中層階であった。
幼馴染で外資系大手の証券会社、ブルーキックスに勤める誠に頼み込み、役員づてで紹介してもらった健二は、約三年前からこのバーで、ある人物を探していた。
そしてその二年後にようやく、若いセールスマンと知り合ったのだ。
健二が男の前に座ると、垂れ目の目を見開き、途端に笑顔になる。
人懐っこい、ゴールデンレトリーバーのように。このままどこで遊ぼうか、なんて妄想をしていると、男が口を開く。
「7560万円からですよ。」
無邪気な子供のようだ。
整った鼻筋、右頬に一つ、ニキビ跡があるのがまた愛しい。
やっと見つけることができたのだ。
「どうやって調べたの?」
「僕が調べたんじゃありませんよ。僕の上司が情報を持っているんですよ」
健二は暫く考えると、4日後に来る。と言い残しバーを離れた。