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二人だけの部屋で何故か周囲をチラチラと伺うと、どもりながら話を始める。片目は緊張から、豆粒大程になり、額が光っている。
明らかに異常な様子を感じた茂は、相槌の速度を緩めると、嘘を付いた男から出たどよん、とした気を逃すように常に口角を上げて聞く。
ボソボソと話し終えると沈黙が流れた。まるで悪戯が見つかり大人から罪状を待つ少年だ。
「君は、潜在意識の中で子供を守りたいと思っているんじゃないのかなぁ」
「違います。僕はずっと、殺したいと思っていたんです。それだけを追い求めてきたし、そうだ、きっと殺してしまえば夢が叶ってしまう。だから殺せなかったんだ。とにかく違うんです。」
「そうかなぁ。でもね、君が見た夢の中では、子供と遊んでいたんだろ?
それに、本当に殺したいのなら嘘を付く必要なんてなかったはずじゃないのかな。うーん、どっちにしても、君の好きにするがいいよ。
慌てないで。ね。
あ、でもーー。」
潰れた様な目が茂に向けられる。
「その"サービス"期限は無いのかな。まだ時間、あるのかな」
(そうだ、言われてみれば…)
青年の契約条件では聞いた記憶が無い。そしてもし、期限が迫っているとすればだ。
(殺さなければならない。)
普段なら誰も気にも止めないような、茂の小さな言葉が健二の中の大きな歯車を回すことに成功したようだ。
(やり遂げよう。ちゃんと、殺すんだ)
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「すみません。先生は只今席を外しておりまして…。あと一時間程もすれば、お戻りになられると思います。」
と、笑顔で話され、健二はオフィスで待つ事にした。予約も取らずに訪ねたものだから仕方がない。
世間話をするわけでもなく沈黙の時間が流れたが、坂崎という事務員はひたすらゲージに入ったハムスターをつついたり、デスクを歩かせて戻しては話しかけ、自分の世界に入り込んでいる。
暫くすると席を立ち、いきなり出て行ったかと思えば、いい匂いのする紙袋を下げて戻ってきた。
(先生もそうだが、この女もどこか随分と子供っぽい)
紙袋を先生のデスクにそっと置くと、またハムスターに話しかけるのだった。順番にゲージから出たハムスターのうちの二匹は特によく太っていて、いちごちゃん、茂くん。と呼ばれている。
彼等の散歩をやめ、デスクの上の木屑を片付けると彼女は引き出しからヒモのような物を出した後、パソコンの横に置いた。
チラリと時計を見たすぐに後のことであった。
彼女が運んできた珈琲が半分になった頃、勢いよくバンとドアが開く。デスクの上の紙袋を確認した後、健二を見つけたようだ。
「欽堂くん。まってたよぉ」
ヘラヘラ笑う彼を見ると、これから打ち明ける罪も許されたような気がした。
「すみません、いきなり訪ねてしまって。実は先生に謝らなければならない事があるんです。前回の事なのですが…」
「じゃあ、中で話そうかぁ」
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毛布から顔を覗かせた冷えきった足に起こされた健二は、横になったまま、時計を見ると9時を過ぎたところだった。
(よし)
心で呟き、キッチンへ向かうと数分後にはじゅう、と言う音と部屋には珈琲の香りが溶ける。
青白い顔で朝食を詰め込むと、少し不安そうにのっそり近寄る猫が膝の上に構える。
ゆっくりと着替え、クラウドに見送られた後暫く歩くと、神戸三宮駅に向かう電車を待つ事にした。五分程待って乗り込んだ電車には若者がいつもより多かった。
眺めると、どこか後ろめたさを感じる。
もう何年も前から心にあった健二の"理想国家"には電車内の人間達は存在しない。代わりに、殆ど破れている奇抜な服を着た青年や、靴を片方だけ履いた少女。そして娯楽用に調達されたたくさんの奴隷。存在もしない国は彼の中身の半分を保つのには充分だった。
食事をしたり、眠る人間を見るときまって彼は思うのだった。食べる事も睡眠も辞めることは出来ない。それと同じくらいに、殺しが必要な人間を誰が認めてくれるのか。
誰かに認めて貰いたい。俺は、ここで生きている。単なる快楽殺人犯ではない。感情だってあるし、殺意をもし別のものに置き換える事が出来るのならそうしたいと思っている。
誰かに認めて貰いたい。
誰かに救って貰いたい。
電車を降りて暫く歩くと、至る所にある神戸牛の看板や、多国籍な人間をすり抜けて、路地に入る。
年中クリスマスの様なライトの付いた看板や賑やかな通りでも、少しそれるだけでしんと静まり、薄汚れたビルが顔を出す。
それは、どことなくぽつんと浮いた電車の中の一人の男とよく似ていた。
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均等に整列し、鮮やかな葉をつけた木の枝が左右に規則的に揺れる。外はとても暖かく、ここ最近の厳しい寒さを飛び越えて春がやってきたような空間だった。
そして、木造で大きく、様々なパステルカラーで仕上げられた家と、一件に一つずつの青々とした茂った庭がゆったりとした間隔で並んでいた。
各々の庭には三輪車、自転車、広いガレージに立てかけられた芝刈り機。赤や緑のボール。何軒かの家には、幼児しか入らない様な小さな小屋が構えてあり、その全てに熊のような犬が昼寝をしていた。
その一角で笑う子供は、最近やっと歩けるようになったばかりなのだろう。宝石の様なクリアブルーの瞳は、日に照らされる事でより一層ガラス玉のようになった。
側でじっと見守る男が駆け寄ると子供は、ぱっと笑顔になるーー。
不安が襲うとかならずクラウドが側にいた。優しく撫でた後、体を起こすと青色の数字が光るアナログ時計は四時過ぎを知らせていた。
健二の悪夢は、海外の住宅街らしき場所であったが、近所の公園がテーマになっているものもあった。
公園が出てきた日には特に酷く気分が悪くなり、トイレに駆け込むと食べたものを吐いていた。
二回深呼吸をして、また眠りにつく。夢の続きを見ない事を彼はわかっていた。
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(覚悟を決めなければならない。
正しい人間になるには強い意志と責任を持って自分で決めた事はやり通さなければならない。)
イギリスの誰かが生み出したらしい名言が書かれた本は、高校生になったばかりの健二に、誇らしげでサラリとした文字で、立派な人間の常識を叩き込む。
五歳ほどの頃にはもう、家族に消えて欲しいと望んでいた彼は、その数年後には自分が少し変わっていると気づいた。
おかげで本やテレビドラマ。映画やアニメ等は他人に心を開く事が出来なかった健二に"正しい人としてのあり方"の正解への材料を少しずつ与えてくれていた。
正解という鎧に包まれただけで、中身は変わらなかったが、それでも良かった。正規品として、振る舞えるだけでも十分生きていくことはできた。
しかし、これまでに正しさを学んできただけに、反省が大きい。
根源は先生に子供を殺したと嘘をついた事と、それを殺すという夢を達成していない二点。
内容の根源は一緒だが、その二つは違う。
そして、彼がこれまで吸収してきた人間感も、実際は大きく違っていた。
人は嘘をつくし、うまく行かなくなると諦めてしまう。知り合いの悪口を言うし、真面目に働かない。
イギリスの名言を読んでから、暫くした健二は、これまでさも大きく立派に、尊厳を持って崇めなければならない。とされてきた"家族"が酷く、立派からは遠い所にある事に気付いてしまった。
健二はここ数日嫌な夢を見る。
健二がホテルを最初に訪れてから早いもので、二週間が経っていた。
15
イヤフォンを外し二人の男をオフィスの外へ見送ると、彼女はため息をついた。二ヶ月以上タイピングをしていなかった事と、予想以上に健二が早口で話すので、議事録は途中で途切れてしまったのだった。
反省した後、"みるくちゃん"のネームプレートを作っていると、興奮で少し髪が逆立った茂がトントンとリズミカルに戻ってきた。
「欽堂くんはまだ蛹なんだ!でも、彼はきっと綺麗な蝶になるよ!」
「子供を殺したんだから、もう夢は叶ったんでしょう?まだ蛹…被害者がこれからも増えるということですか?」
「うぅん…。」
茂は唸った後、納得いかない様子で暫く考え込んだ。先生の説は確信まで到達していないようだ。そして、
「からあげ」
と言ったっきり、ベッドほどもある大きなデスクの引き出しを片っ端から開け始めた。
キリングミの次は、からあげだ。
美穂が買い出しを終えて戻った頃には、彼女からするとガラクタがひっくり返された山に、茂が真剣な表情で蝶の標本を見つめていた。
これまで十五人以上の "モンスターの原石" を観察してきたのは一人だけではない。美穂には仮説があったのだが、口には出さないでおいた。
只の勘なのでしっかりした理由が無かった事と、そろそろ先生の話が始まる事が分かっていたからだ。
しかし、十程あった唐揚げを七口で食べ終えた茂は、柄にも無く疲れたようだ。頬杖をついたまま眠ってしまっていた。
なんとなく、面白くなりそうだな。と、美穂は微笑を浮かべた自分に気付いてはいなかった。
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「僕はこれまで、あまり物には執着しないタイプだったんですが…。こんな空間にいると、僕の部屋も真似したくなりますね」
「いやぁ飽きっぽいから、もうそろそろガラッと変えちゃいたいんだけどねぇ。何か飲む?」
「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「そっかぁ、また欲しくなったらいいなよ。酒以外は大体あるからさぁ。
ふふ。それじゃ、早速なんだけど、私に話したいことはある?」
「一言で表すなら、最高の喜びですね。僕、まさか日本で夢を叶えられるとは思ってなかったんです。集めた資金で発展途上国に行ってからじゃないとダメだと思っていたので、まさか日本でですよ、この国でしかも、白人の子供が買えるなんて。
長い道のりでしたが、それでも運良く早かったのだと思います。次はどうしようかな、なんて考えたり、とにかく殺した後は物凄い達成感が
「うんうん」
「先生、今後もお尋ねしてよろしいでしょうか。」
「欽堂くんならいつでも歓迎するよぉ。もっと話を聞かせてほしいしなぁ」
「……先生、もし貴方が今の僕なら、次はどうなされますか?」
「えっ、うーーん…。あっ、そうだ、欽堂くんが次来るまでに、考えておこうかなぁ」
「すみません、困らせてしまいましたね。では僕はそろそろこの辺で…」
1月18日 15:11〜15:39
達磨 茂
欽堂 健二
坂崎 美穂
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「スパーク…いちごちゃん…みるくちゃんと……しげる!」
駅前にオープンした小洒落た100円均一ショップで売られていたちいさなカードは、楽しそうにペンを握る美穂に応えるように、少し丸く跳ねるような文字を受け止める。
インスピレーションで浮かんだ名前と、その内の一匹、"しげる"は美穂の上司である男と同じ名前で、共に食い意地が張っている事からその名を付けたのだった。
二枚目を書き終えた時、オフィスの扉が勢い良く開き、爛々とした目の"しげる"と、その後ろに久々にもう一人、美穂の初めて見る男がいた。
会釈し、目を合わせる。
何かおかしい。
…異様に左目が小さい。
倍ほどもサイズに差があるなんとも奇妙なその二つは、確かに先生が興味を惹かれていたのもほんの少しだけわかる気がした。
(雌雄眼…)
以前聞いてからというもの、美穂も思い出せば友達や、家族、コンビニの店員からテレビの芸人まで、気がつけば観察するようになっていた。
雌雄眼を持つものは大きな野心がある。
そう以前嬉しそうに茂が話していた特徴と、他にも人相学の世界では雌雄眼を持つ者は才知に富んでいたり、胆大心小などの特徴があるらしい。
更に不思議な事に、男女でも特徴は違っているようだった。
しかし何故かこれまでの七年間、彼女と茂以外にオフィスに入った事があるのは男だけであった。なんの疑問も持たず受け入れていた美穂は、感覚で男性の特徴だけを調べ、観察するのも男性だけなのであった。
「欽堂健二です」
特に特徴の無い声でさらりと挨拶を済ませた男が、美穂のハムスターケージの前を横切り、先生と奥の部屋へと向かっていくのを確認し、
丸くていかにも女性らしい字で書かれた名前プレートをデスクの脇に寄せると、イヤフォンをはめ、二人の会話に集中するのだった。
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12
十二月のある日。厚手で紺色のコートに身を包んだ華奢な女性はここ三日間同じデパート内のコーヒーショップへと訪れる。
選ぶものも三日間同じで、一円玉サイズのカラフルなグミがぎっしり詰まったパックを五つ。
誰がみても海外製品だとわかる、毒々しい色をしたそれは、全てキリンの形をしていた。
早足で帰ると、笑顔で待つボザボサ髮の男へそれを渡した。彼から"雌雄眼"の話を聞いてから、もうすでに二ヶ月。
「先生、次の方はいつ来られるんですか?この前話していたシユーガンの人。」
「うぅん…」
一ヶ月前にこの会話をしたっきり、音沙汰が無い。唸った当人も宛がないようで、退屈そうな美穂を察してか、何故か翌日色とりどりのコロコロとしたハムスターが四匹、美穂のデスクに並べられていた。
二匹ずつピンクとブルーのクリアなケースに入れられたハムスターは、喧嘩することも無く重なってぐっすりと眠る。
ハムスターなんて欲しがる年齢じゃないと思いつつも、その日から仕事を半分の時間で済ませると、彼等を飽きることなく見つめていた。
四匹には美穂がわかるようで、彼女がおやつをあげたり、散歩させようとすると決まって起きて入り口まで駆けてくる。
これなら誰も来なくてもいいかな。と思うほど夢中になっていたのだった。
そのまま年が明け、一月の中頃。ようやく新しい先生の"お気に入り"が二人を訪れる。
11
美穂が"先生"と呼ぶ男の元で働き始めてから、約七年が経つのだが、診察室のようなオフィスを訪れたのはたったの十六人ほどである。
彼女が、来なくなったな。と思うと、先生は新しい人を一人連れてくる。途切れる事はこれまでに無かった。
しかし、先生が捕まえてくるお気に入りは毎日二人の元へ顔を出すわけではないし、月に多くても四回ほどなのだ。
週に五日間きっちりと働いている彼女の仕事は、
歴史も深みもないシンプルな自身のデスクと、
毎日食べ物のカスや、
ジャンルの全く異なる漫画、書籍、
放り出したままの、青く美しい花をした蝶の標本
時にはいつ用意したのかもわからないLEGOブロックが散乱する先生の畳一畳ほどもあるデスクの片付け
あとは一日一度、先生の好物を買い出しに行くことだった。
そして、彼が待ちに待った"患者様"が現れると、二人は彼のデスクの横にある扉の奥へと入って行く。
壁一面を本が覆い尽くしており、手のひらほどのトロフィーがいくつかと、五百円玉ぐらいの拳銃のフィギュアなど、先生お気に入りコーナーもある。
子供が好きそうな物をギュッと詰め込んだような部屋だ。
二人が部屋に吸い込まれたのを確認すると、彼女はパソコンの前に腰掛けて、イヤフォンを付け、二人の会話をリズム良くモニターへ移して行く。
先生の名前。その相手の名前。そして、美穂の名前を打ち込むと、二人が部屋から出ると同時に印刷までを終わらせ、書類ケースに滑りこませる。
頼まれた訳ではないが、忘れっぽい雇い主の為に買って出た仕事だった。
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10
露出した肌が見えなくなり、厚手のパーカーや、中にはかなり早いがマフラーを巻く人もいた。
ひり、と風が肌の水分を奪うような季節の頃だった。
神戸の南京町近くにある、輸入雑貨屋の中のようなガチャガチャした飲食店街を道一本、それた場所に二人はいた。
「シユーガンですか?」
「うん。そうなんだ、雌雄眼がね、彼は凄いんだよぉ。今まで見た中でもとびっきり!でさぁ」
「なんなんです?シユーガンって」
「つまりぃ、左右の眼のサイズがアンバランスなんだよ。なんか大きな野望を持ってるんだって!ネットで見たの!」
「またネットですか。でも私も見てみたいです。そういえば先生、占いの勉強は進んでます?私、魚座なんですよ。」
「うーん、まぁ、本は読んでるよ」
先生は占いに飽きてしまったみたいだ。そして、あの調子からすると今日から始まるのは人相学。
全くもって飽きっぽいし、そんなこと調べる時間があるのなら、ボウボウ飛び出した髪を切ったり、自由に甘やかされ、左や右に飛び出した髭を整えたり。
そうすれば"センセイ"が理想とする天才っぽい人間に近づくのではないのか。
矢継ぎ早に枝分かれを繰り返す彼の話を、本気で相手にするのには苦労する。
先月だって、
「ちょっと出てくるね。凄いアイデアが浮かんだんだ」
と言うなり、プラモデルを急に買い込んで戻ってきたり、その二週間後には揃えた玩具を放置し、最新機種のスマートフォンに夢中になっていた。
彼と働き始めて七年になるが、これまで愛想が良い事だけを周囲に認められ、育ってきた美穂も時折、自分の口角がひん曲がっていないか心配になる程だ。
しかし、彼には一つだけ興味の尽きない対象があるようで、大小やる気に波はあったとしても、変わった人間を見つけると、この小綺麗で小さなオフィスに連れてくる。
決まって一人ずつ。
先生の目に止まった人物は、一週間〜三週間おきに彼女達のオフィスに訪れ、2時間ほど話したかと思えば、自信に満ちた営業マンのような顔で帰っていく。
白衣を身につけ、目の前で菓子を頬張る男を眺めていると、まるで病院みたいだと美穂は感じていた。
だがそれと決定的に異なるのは、先生も美穂も医師免許どころか免許と呼ばれるものは何一つ、持ち合わせていなかった。
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一区切りの中書き
健二のお話はここで一区切りです。
私は前書き、とか後書きとか、そういうものを書いたことがなかったので話をしたい時にそのタイミングで書いていきます。
今メディアでは世にも恐ろしい殺人鬼の方たちや、親として、子として家族を大切にできなかった人々がニュースとして名を広めます。
そしてそれを受け取った方達がなんとも複雑な気持ちや怒りを露わにして攻撃するんですね。
でも、どんなに誰が怒ったとしても、許さないと思ったとしても、存在するでしょう。
彼らは身近な場所で生きているんです。
夫婦やカップルはその二人にしかわからない事がある。介入するべきではない。
こんな意見をよく聞いたことがあります。
いくら彼女が周りの友達とランチ中に愚痴ばかりこぼして離れたいなぁ…なんて言っていたとしても、じゃぁ別れちゃいなよ!と言われてその通りにする人って、ほとんどいません。
心内は誰にもわからないのです。
それは、きっと彼氏もそうなのでしょうが、少なくとも、彼らの."友達"よりはお互いの事を知っています。
愚痴をこぼしている彼女も、勿論良いところも知っていますし、いつも笑って自分のパートナーのノロケ話なんてしちゃう人も、もしかすると相手の決定的な欠点を晒さずに守っているのかもしれないです。
殺人事件の容疑者が、"殺してみたかったから"
"カッとなって"と動機を語る事がありますが、本当なのでしょうか。
彼らは世間と自分の考えが、離れた場所にある事をきちんと理解していて、面倒だから話さないだけで、その中には色々な思考があったんじゃないかと私は思います。
一言添えておきますが、私が伝えたいのは、そこに確かに存在し、生きている。ということで、誰かに加担する立場でものを書いていません。
私も勿論、第三者であることに変わりはないのですが。
ちなみに、批判はあまり得意じゃないです(笑)
コメントをいただけると喜びます。では
9
健二はそっと、赤ん坊を抱き上げる。暗くてわかりづらいが、眼は宝石のようなクリアブルーなのだろう。
肌はモチモチと桃を連想させ、血色の良い唇からは涎が垂れている。少し驚いたように部屋を見回したかと思うと間をおいて、部屋中を突き刺すような泣き声が響く。
(そりゃ泣くか…)
母親を探しているのだろうか。腹が減っているのだろうか、それとも排便だろうか。少し考えた後、
(臭いはないな)
麻袋の置いてあった場所に軽く放った。
どしっ、という音と共に更に激しく泣きじゃくる赤ん坊を置いて、火をタバコにつけると、暫く考える。
健二の夢であった子供を手に入れる事。辿り着いたその先を、彼は想像していなかった。
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8
ごそり。ごとん。
麻袋が落ち、ヒンヤリとした床に転がった。健二が過去から現実に引き戻された瞬間だ。
転がったものを片手で乱暴に持ち上げると、ギュッと縛られた口を開き、中を覗く。
薄い、金色の髪がオマケのように被さっている八ヶ月の白人の赤ん坊が顔を出していたーー。
健二が初めて見た虐待動画は、海外のものだった。これだけニュースとして取り上げられる虐待事件でも、実際画面に映るのは日本だと逮捕された犯人の顔と、被害にあった子供の写真くらいだ。
しかし海外のニュースではベビーシッターの暴行現場や、例えば殺人事件でも死体が報道される。彼にとっては凄まじい衝撃で、その晩は眠ることも忘れ動画を探し続けた。
英単語を調べパソコンに打ち込み、虱潰しに動画を探し続ける日々を送った。
ある日、慣れた手つきで虐待動画を探していると、珍しく日本の動画サイトに辿り着く。どうやら海外のテレビ番組をアップロードしているアカウントのようだ。
右から左へと、画面上に閲覧者からの感想が流れていく…。内容は、ベビーシッターが乳児を叩いたり、熱湯らしき物が入ったマグカップを頬に当てている。
「気持ちいい…」
一言、流れたコメントに目を奪われる。快感を感じているのだ、この乳児が粗末な扱いを受ける様子に。日本のどこかにいる誰かが。
勿論、自身では分かっていた。この国には子供に悪意を持って危害を加える、悍ましいと恐れられている人間が存在していることを。
それでもたった一つの「気持ちいい」というコメントで、健二は大きく安堵し、自己を癒すしかなかったのだ。
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